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「この人に聞きたい!」コーナー   
~企業における女性活躍に関する情報開示~
ポジティブ・アクションについて、有識者の方にお話を伺う「この人に聞きたい!」コーナー。
今回は、ダイバシティ・マネジメントについて研究していらっしゃる、早稲田大学大学院商学研究科の谷口 真美教授にお話をうかがいました。

谷口 真美

谷口 真美氏

早稲田大学大学院 商学研究科 教授

Profile
1996年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士号取得。広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻、助教授を経て、2003年より早稲田大学大学院商学科助教授(2007年4月学校教育法により准教授に改称)。2008年4月より現職。2000年~2001年、米国・ボストン大学大学院組織行動学科エグゼクティブ・ラウンドテーブル客員研究員。2013年~2015年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院客員研究員。著書に『ダイバシティ・マネジメント』(白桃書房)、近書に「多様性とリーダーシップ」(組織科学)など。

2016年4月の女性活躍推進法の施行から約2年が経過しましたが、
日本の企業において、どのような変化があったとお考えですか。

谷口氏 女性活躍推進法の影響で、情報開示について外形的に進展したことは間違いないですね。それまで情報開示に消極的だった企業も、ある一定の情報は開示するようになりました。ダイバシティに対して組織がとる行動には、「抵抗」、「同化」、「多様性尊重」、「分離」、「統合」(図表)の5つの段階があるのですが、「抵抗」に属する企業、つまり何も行動を起こさない企業が減ってきたということです。今は、多くの日本の企業が「同化」の段階にあるのではないでしょうか。「同化」の段階とは、法令順守を目的として現状の組織や文化を変革せずに、女性や外国人といった少数派を現状に取り込もうとする段階です。そこから発展し、ダイバシティを経営成果につなげる「統合」の段階にある企業はまだ多くはありません。

図表 ダイバシティに対する企業行動

出典:谷口真美(2005)『ダイバシティ・マネジメント:多様性をいかす組織』白桃書房,p.257,図表4-12[2017年第1版5刷加筆修正版]

 一方で、自発的にダイバシティ推進に取り組んでいる企業と、法による義務により情報開示している企業が二極化しており、法制化が進むほど、後者は増えるでしょう。また、企業が開示している項目にも偏りがあります。女性活躍推進法では1項目以上を開示すれば良いことになっていますが、企業がどの項目を開示しているかを見ると、本気でダイバシティに取り組んでいる企業と、そうでない企業の違いがわかるのではないでしょうか。例えば、採用に関する項目は取組開始から短期間で成果が上がりますが、女性の管理職比率の項目は成果が上がるまで時間がかかるため、短期間での数値改善は難しい項目です。つまり、比較的情報開示が進みにくい項目と言えます。
 また、法制化によって外形的な取組が進展する一方で、自主的・実質的な取組が後退するというトレードオフ※1が発生しています。企業にはそれぞれ強みがあるはずで、どの課題に注力するか、どの項目を情報開示するかによって企業の特性が出てくるはずなのですが、そこに強制力が働くと企業の自発性が阻害される一面があります。法制化以前は、日本政府もそのようなトレードオフがあることを十分に認識していたので、情報開示については企業の自主性に任せていたのですが、ポジティブ・アクションがなかなか進まず、アファーマティブ・アクション※2まで到達せず、それゆえダイバシティの分野においては先進国から何十年も遅れる結果になりました。企業の自主性に任せた取組では、政府が掲げた「202030※3」の達成は難しく、女性活躍推進法の制定という流れになったのだと思いますが、各企業独自のカラーを出すことを難しくしてしまいました。
 しかし、アメリカにおいても1972年にアファーマティブ・アクション※2として企業データの開示が義務化され、平等や公平性が重要視された時代の後、1980年代前半にダイバシティの流れが生まれ、多様性を重視するようになりました。このように、法により情報開示を義務化した後に、再び企業の自主性に任せると変化が生まれる可能性があります。

※1 トレードオフ:一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状況・関係のこと。
※2 アファーマティブ・アクション:社会的・構造的な差別によって不利益を被っている少数派の人々に対して積極的に差別を是正する措置。
※3 202030:社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標(平成15年6月男女共同参画推進本部決定、第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月閣議決定))

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