WEBマガジン EVOLUTION vol.2 グッドプラクティス企業

第2回 シナノケンシ株式会社

2000年に人事制度の刷新にあたり、自社の賃金構造の分析により明らかにした男女格差を是正するため、女性の職域拡大と就業継続に着手したシナノケンシ(長野県上田市)。この10年間で女性技術者が増え、女性課長も誕生、女性の育児休業取得率が100%に推移するなど、実質的な効果もアップ。人事の責任者として取組を推進されてきた 堤 宏記氏 にこうした経緯やワーク・ライフ・バランスの取組などについてお聞きしました。

人事担当者に聞く

女性の育児休業取得率は100%。
男性の育児参加も定着しています

堤 宏記氏

シナノケンシ株式会社

事業推進本部 副本部長

堤 宏記
シナノケンシ株式会社
事業推進本部 副本部長

PROFILE

プラザ合意後、激動の時代に入社。
購買部門、システム開発プロジェクト等を経て現職へ。
趣味は、料理と映画鑑賞、スポーツはウインタースポーツ、バスケット。

男女の賃金格差是正のため、女性の職域拡大と就業継続に取り組む

-平成20年度「ファミリー・フレンドリー企業部門」において厚生労働大臣優良賞を受賞されましたが、取組を始めたきっかけからお話しいただけますか。
堤氏 10年前、私が人事制度改革の責任者になったとき、これからの基本方針を立てるようにいわれました。そこでまず自社について知らなければと考え、賃金構造をいろいろな角度から調べたのですが、年齢、性別、職種などいろいろな角度から分析した結果、問題点の一つとして、くっきりと男女格差が浮かび上がってきたのです。
 その原因がどこにあったかというと、男女間の職種の偏りです。当時、女性の技術者はゼロ、営業についても支援スタッフとしては多くの女性が活躍していましたが、営業職自体はゼロで、逆に一般事務と工場のラインは女性というように、職種によって男女の役割分担が固定化していました。また管理職にも女性はいませんでしたが、それ以前に、出産を理由に退職する方も少なからずいました。とにかく「これではいかん」ということで、採用の入り口も、昇進・昇格のチャンスも移動も評価も教育も、すべて変えていかなければいけない、と人事制度全体に手を加える取り組みを始めました。

-これらの取組を始めるとき、社内から反発はありませんでしたか。
堤氏 他社さんからもよく聞かれますが、「現場管理職の抵抗」のようなものはありませんでした。その背景には、「頑張ってくれる人には、性別、年齢、障害の有無にかかわらず、活躍の場を提供し、皆で仕事をする」「そのような雇用の機会を与えるのは当然のこと」という歴代社長の経営哲学とその浸透があると思います。当社は障害者雇用を進めるだけでなく、定着を図るためのネットワークを作ったり、1984年には世の中に先駆けて高齢者を専門に雇用する会社を設立しています。

技術職の女子学生をコンスタントに採用、課題は女性営業職の育成

-ダイバーシティというトップの経営哲学が、社員の方にも浸透しているのですね。女性の職域拡大は、どのように進められたのですか。
堤氏 技術職については、採用に力を入れました。もともと大学の工学部は女性が非常に少なく、機械工学科160名中女性1名というところもあります。そこで求人票の左すみに、社名よりも大きく「女性採用積極企業」と書いてアピールするなどの工夫を重ね、候補者自体が少ない中から理工系の女子学生をコンスタントに採用しています。
 女子学生にとっても女性の先輩が働いている企業は会社訪問の対象になりますし、他大学であっても、女性技術者が活躍しているということで親近感を抱いてもらえるなど、毎年採用を続けてきた効果が出ています。ですが、営業職についてはなかなか定着が難しく、まれに「営業をやりたい」という女性もいて、あらゆるサポートをしていますが、お客様との間に壁を感じてしまうようです。

-専門的な知識があれば、男性、女性は関係ないように思いますが。
堤氏 たしかに専門知識があれば強いのですが、もともと理工系の女子学生の数が少ないという問題がありますので、女性の営業職や管理職については、長期計画を立てて育成していく仕組みづくりが必要で、いまもって社内では重要な課題の一つです。

初の女性課長が誕生、ポジティブ・アクションで女性係長も増加

-女性の管理職については、どのような状況ですか。
堤氏 昨年、女性初の課長が誕生しました。そのときは本人と一緒に21世紀職業財団の長野事務所を訪ねて、「女性の最初の課長がつぶれないようにするには、どうすればいいですか」と相談し、メンター制度導入についてアドバイスをいただきました。

-女性課長の誕生は、ほかの女性にとって「自分も課長になれるかもしれない」という目標になりますね。課長登用の際は、何らかのサポートをされたのですか。
堤氏 特別な施策を行ったということはありません。その女性は調達部門において、たくさんの取引先をコントロールするという大変な仕事をこなしていますが、係長時代から取引先との信頼関係を築き、経験を積みながら、実践でマネジメントを勉強して課長になりました。

-ご本人の実力でということですね。あとに続いてもらうためには、女性係長を増やす必要がありますね。
堤氏 そこに関しては、たとえば同一年齢で同一経験をもっている男女がいたら、「女性のほうはどうか」とすすめるようにしています。5~10年先にかけて結構な人数がプールされてくると思いますし、いろいろな部門で力のある女性が育っています。

コミュニケーションと法を上回る制度で就業継続をサポート

-課長や部長をめざすには、出産後も働きつづけることが条件になると思いますが、育児休業を取りやすくするための工夫などはされていますか。
堤氏 当社の場合、人事の育児休業窓口が社会保険の担当窓口を兼ねているので、必然的にいろいろな事務連絡をとりあうことになり、人事とのコミュニケーションが育児休業の取りやすさにもつながっていると思います。休業中は窓口を一本化した上で、郵便、メール、電話などで絶えずやりとりをし、復帰に困難が生じた場合は、家庭訪問を行い双方向の理解を深めることで、復職後の不安を取り除くこともあります。その他、子育て支援のホームページも開設していますが、今後は携帯電話のツイッターなどを活用して、即効性を高めたいと考えています。
 制度については、5年前に育児休業を改定し、育児休業は子どもが3歳の誕生日直後の4月末まで、短時間勤務は子どもが小学校就学後の4月末まで、時差出勤は子どもが4歳に達するまでと、それぞれ延長しました(「両立支援の主な取組」参照)。また今回の育児・介護休業法の改正に合わせて、短縮できる時間を1時間から2時間に拡大しています。

-法を上回る内容ですね。育児休業や短時間勤務等の利用者は増えましたか。
堤氏 10年ぐらい前は6~7割でしたが、過去5年間の女性の育児休業取得率は100%で推移しています。人数でいうと女性49名で、男性も2名います。また過去5年間に、短時間勤務は男性2名、女性32名が、時差出勤は男性11名、女性2名が利用しています。介護休業も男性3名、女性3名が取得していますが、男性の中には週1~2日単位で利用している管理職もいます。

時差出勤を利用して送り迎え、男性の育児参加も定着

-女性だけでなく、これだけ男性の利用があるのは、すごいことだと思います。
堤氏 男性の育児参加については、とくに上司と人事の連携を強化して対応しています。とくに時差出勤については男性の利用者が増えており利用者のほとんどが男性です。この制度を利用して朝の支度や子どもの送り迎えを担当するなど定着してきています。じつは、当社をはじめとする地元企業、NPO法人、上田市教育委員会との協同で、年に8~9回「父親向け子育て支援講座」を開催しているのですが、この講座がきっかけで育児休業を取得したり、時差出勤を利用するようになった男性もいます。

野外講座「親子の流しそうめん大会」
野外講座
「親子の流しそうめん大会」

-地域と連携したすばらしい取組ですね。しかも、実際に父親の育児参加につながっています。
堤氏 毎回30~40名の参加がありますが、「参加してよかった」という声をいただいています。「これからは妻の話をよく聞こうと思った」とか、ご夫婦で参加される方も多く、「お互いのつらさを知り、思いやれるようになった」などの感想が寄せられています。なかには、「前の会社で『出世に響く』といわれて育児休業を取るのをあきらめたが、世の中の理解を進めるために、こういった講座を続けてほしい」というものもありました。ちなみに当社では、男性も女性も育児・介護休業や時短勤務の取得者が、昇格等の評価に不利にならないよう人事考課上の加点調整を行う等、制度面でも配慮されています。
 そのほかに、近隣企業が集まって、定期的に勉強会を開催しています。各社とも従業員数、女性割合、海外進出などが同じような状況で、労働問題に関しても共通の悩みを抱えているので、ここでの情報交換はとても役に立ちますね。

ワーク・ライフ・バランスは常に経営課題、社員の元気がシナノケンシの源です

-子育て中の父親を中心に、男性のワーク・ライフ・バランスも進んでいるようですね。
堤氏 ワーク・ライフ・バランスについては、かなり早い時点から社長自らがその必要性を説いていて、経営方針の1つに掲げています。経営トップも繰り返し言いますし、人事が毎年4回実施する管理職研修では人事ももちろん言います。人事の実施する管理職研修は、最後は必ずワーク・ライフ・バランスの話です。
 また週2回の定時退社の徹底により労働時間の短縮化を図るとともに、毎月労使による「ワーク・ライフ・バランス推進委員会」を開催し、月間の残業が60時間以上の社員の仕事内容を分析してその労使で対策を考えるなど、残業時間の適正化も進めています。

-長期の人材育成、グローバル化も含めて、課題は具体的ですね。
堤氏 5年、10年先の社会・経済等世の中の進展の中で、会社の発展と、社員の職業人生・成長のシナリオをどう描いていくかというのはとても難しいことです。しかしその計画をみんなが意識して作り、共有することが大事だと認識しています。企業の人事としては様々なギャップの中から問題や課題が具体化したところで、どう育成環境を整備して実現するかをとことん考えていきたいと思います。
 当社は海外にも多くの会社があり大勢の仲間が働いていますが、各国の事情を踏まえ、グローバルな視点からの課題に対応していきたいと考えています。制度見直しに着手した2000年から10年が経過しましたが、そのとき考えていたことと今考えていることは実は同じです。すなわち企業における人事の使命は何か? それはとりもなおさず‘社員の元気の源になる事’です。課題は大きく遠く及びませんが、様々な元気の源を、グローバルに発信し続けていきたいと考えています。

CASE STUDY

取組事例紹介

ポジティブ・アクション応援サイト