WEBマガジン EVOLUTION Vol.3 グッドプラクティス企業

第3回 東京電力株式会社

平成18年にダイバーシティ推進室を設置し、「女性の職域拡大」と「女性管理職の育成」に取り組んできた東京電力株式会社は、平成22年度の均等推進企業部門において、厚生労働大臣優良賞を受賞。『女性社員がさらに活躍できる環境づくりを目指し、会社一体となって条件整備に取り組む』同社の5年間の取組と、今後の展望について、労務人事部長の高瀬賢三氏にお聞きしました。

人事担当者に聞く

管理職任用は男女平等、
その手前の教育・育成にポジティブ・アクション

高瀬 賢三氏

東京電力株式会社 労務人事部長

高瀬 賢三
東京電力株式会社
労務人事部長

PROFILE

昭和55年入社。栃木支店、本店文書課、原子力部門、企画部等を経て、平成18年に東京支店新宿支社長に就任。平成20年本店労務人事部長に就任し、現在に至る。趣味はランニング、ピアノ。

5年前に「ダイバーシティ推進室」を設置、全社的な意識改革に着手

-取組を始められたきっかけから、お話しいただけますか。
高瀬氏 当社には約3万8000人の従業員がいますが、その3分の2は技術系です。現場では電柱や鉄塔相手の仕事ですし、もともと男性比率の高い職場ですが、男女雇用機会均等法の施行以来、均等処遇に一生懸命取り組んできました。事務系については比較的早い段階から女性を管理職に登用してきましたが、他の企業と比較した場合、女性の職域拡大や管理職育成が遅れていることは間違いなく、お客様の半分は女性ですから、やはりしっかりと女性を育てていく必要があるということで、平成18年2月に「ダイバーシティ推進室」を設置しました。

-ダイバーシティ推進室が設置されてから5年目になりますね。今までどのように取組を進めてきたのですか。
高瀬氏 当社は男性比率が高く、男性型の職場ですから、「女性にきつい仕事はやらせない」など、女性にやさしくなりすぎる傾向がありました。同時に、「女性には無理」という固定観念があったので、まずはそこから崩していこうと、女性はもちろん、管理職の男性を対象に意識改革のためのセミナーや講演会を開催してきました。徐々に意識が高まり、毎年、意識調査を実施していますが、「ダイバーシティが進んでいると思う」という人が増えてきました。

性差のない均等な業務付与方針明示のため、17部門合意の「女性社員への業務付与ガイドライン」を制定

-そういった意識改革と並行して、「女性の職域拡大」と「女性管理職の育成」に取り組まれてきたのですね。
高瀬氏 職域の拡大についていえば、当社は発電所などの「電源部門」、鉄塔に上って作業する「送電部門」、電柱上の作業がある「配電部門」など、いろいろな部門に分かれていますが、17部門の関係者に集まってもらい、女性活躍検討タスクチーム「プロジェクトF」を結成しました。「プロジェクトF」では、女性社員の現状分析や課題を抽出するとともに、「どういう仕事だったら女性でも挑戦できるか」について徹底的に議論しました。そこで合意した内容をまとめて「女性社員への業務付与ガイドライン」という冊子をつくり、「女性だから無理」ではなく、必要な条件整備はしながらも、男性と同等に仕事を与えてもらうようにしました。

-男性の上司にとって、大きな意識改革にもつながりますね。
高瀬氏 そうですね。その結果、発電所や送電設備の建設業務、ダムの保全業務、柱上作業を含む配電保守、放射線管理の宿直、中近東への海外出張など、女性が活躍する場が広がりました。また、職域の拡大は技術系に限ったことではなく、たとえば「総務」の仕事には、損害賠償の交渉なども含まれますが、難しい交渉ということで、あまり女性にやらせたがらない傾向があるので、「女性社員への業務付与ガイドライン」では、「女性でも当然できる仕事」に入れています。あとは、「やる気のある方に来てほしい」ということです。実際、私が新宿支社にいたときに、電気料金をお支払いいただけないお客様との交渉は調整が難しい仕事で、男性がやらないとダメだという考えがあったのですが、担当のある女性がしっかり対応されていました。男女限らず、やる気がある人ならこなせる仕事も多いと考えています。

今年の女性技術職の採用は67名に、意欲を活かせる職場づくりに取り組む

-まずは女性に機会が与えられて、そこで鍛えられ、徐々に力をつけていくという良い例ですね。「本当はやってみたいけれど、自分からは言い出しにくい」という女性もいるでしょうし、上司がそれぞれのやる気、適性を見抜いて、背中を押すことは大事だと思います。また、技術系の女性については、そもそも工業高校や大学の工学部に女性が少なくて、採用自体が難しいという話も聞きますね。
高瀬氏 当社では女性技術職の採用拡大のため、女子学生向けのキャリアセミナーに変電所等の施設見学を含めたり、広報誌やホームページ上で活躍している技術系の女性社員を積極的に紹介しています。また技術系女性の採用自体も、4年前は20名程度でしたが、今年(平成22年度)は67名と増加しています。新入社員には意欲が強い方も多く、「自分はなぜ、夜間の変電所のパトロールをさせてもらえないのか」という女性もいて、「防犯対策ができていないので」とお答えすることもありました。そういった意欲を職場が押さえ込むことのないように、職場環境を整備していくとともに、ひきつづき意識レベルをあげるように取り組んでいきたいと思います

現在200名超、管理職の女性候補者の裾野拡大は、個別の育成計画と繰り返しの動機付けから

-女性管理職の育成については、いかがですか。
高瀬氏 当社は男性型の職場ということもあり、女性自身も最初から「男性と伍してやっていこう」という意識が強いとはいえません。そこで、ポジティブ・アクションの方向性としては、「女性を管理職へ任用する」ことではなく、その前の段階の「管理職候補の育成」の部分に力を入れています。各職場において、「5年~10年後に職場のリーダーやマネージャーを担える可能性のある人」ということで30代半ばから40代後半の女性を推薦してもらい、管理職候補として長期的に育成しています。今はそういった管理職候補の女性が200名ぐらいおり、管理職になると抜けていきますが、毎年新たな推薦もされて徐々に増えてきています。

-年間、何名ぐらいの女性が管理職に任用されているのですか。
高瀬氏 今年度は12名が管理職になりました。ただし、年間何名といった数値目標を定めているわけではなく、任用は男女平等に行われています。ですから、管理職候補に入ったからといって、その翌年に管理職に任用されるわけではなく、人によっては5年先、10年先という人もいます。

-「任用」ではなく、あくまで「育成」の部分でポジティブ・アクションを行っているということですね。個別育成とは、どのように行っているのですか。
高瀬氏 それぞれの職場の直属の上司と人事部門が相談して、一人ひとりに育成計画を考えてもらっています。次はどのような業務を付与するか、どこのポジションに異動させるか、といった計画ですが、管理職になる目標も、人によっては3年後だったり、5年後だったりしますし、中には10年後という人もいますが、そこにいくまでにこの仕事を経験させたいという、その女性に対するキャリアパスの計画なのです。人事部門で毎年それをチェックして、計画どおりになっていない場合はその理由書を上司に提出してもらいますが、異動についてそのくらい上司にしつこく言わないと、「そのうちに」とかわされる場合もあり、いつまでも実現しません。

研修やロールモデルフォーラムも開催、女性管理職の増加ペースがスピードアップ

グループディスカッションの様子
グループディスカッションの様子

-仕事がわかっている部下を手元に置きたいということでしょうね。やはり意識して女性に良質な経験を積む機会を与えるようにしないと、そうなりにくいところはありますね。
高瀬氏 そういった壁がなくなるまでは、育成計画の作成を続ける必要があると思います。その他、管理職候補に対しては、定期的に動機付けのためのセミナーや研修を実施しています。その人の職歴の中で不足しているものを洗い出して、たとえばマネジメントに関する経験値が足りない場合は、そこを重点的に補う研修を行っています。セミナーには社長や会長にも出席してもらいますが、やはりトップから直接話を聞くと、「会社も本気なんだ」と信じてもらえるようです。また、裾野を広げるために、入社4年目の若手女性社員向けにロールモデルフォーラムも開催しています。これは先輩女性5人くらいに来てもらい、今まで経験してきた悩みや乗り切り方などを直接伝えてもらい、その中で参考になることや目標とする方を見つけてもらえればと考えての取組です。

-これらの取組の成果は現れてきていますか。
高瀬氏 平成17年には女性の管理職(課長クラス以上)は45名ぐらいでしたが、平成22年7月の定期異動では74名になりました。全体的にみるとまだまだ微々たるものですが、速度は上がってきていると思います。また管理職の手前にあたる係長クラスの女性も、大幅に増加しています。会社の女性比率が12%なので、将来的な目標としては女性の管理職割合を女性比率に見合ったものにしたいと考えていますが、まずは女性の支社長に誕生してほしいですね。本店で配電系のマネージャー(管理職)をしていた女性は、今年の7月から副支社長になっていますし、徐々に実力のある女性が実力通りのポストに就くようになっています。

12支店にダイバーシティ専任者を置き、部署ごとの目標を設定

-女性の支社長が誕生するのも、そう遠くなさそうですね。
高瀬氏 さらにポジティブ・アクションの取組を進めていくために、試験的ではありますが、今年度から支店長や支社長、部長自身に、それぞれの職場における女性活躍支援の目標を立ててもらいました。また、ダイバーシティ推進の取組をより深く、よりスピーディに進めるために、各支店にダイバーシティ推進の専任ポストも設けました。

-自分で目標設定をすると、さらにダイバーシティへの意識も高くなりますね。ダイバーシティ専任者は何名いるのですか。
高瀬氏 本店のダイバーシティ推進室の他、10支店と本店火力部門・原子力部門にそれぞれダイバーシティ専任者をおいています。全部で13名の管理職と9名のメンバーがいます。内訳は男性10名、女性12名。管理職候補の女性200名についてはこちらで管理できますが、支店はともかく、その下の支社になると女性社員数が多く、どこにどんな人がいるか見切れません。今回は19名のダイバーシティ専任者に支社や発電所もまわってもらい、女性活躍がうまくまわっているかをチェックしてもらったり、問題がありそうなところはフォローしてもらっています。このように全社的に取組を推進していますが、キャリアについて悩む女性も多いので、女性社員全体の育成を継続して行う必要性を感じています。

-候補者の200名は世代的にはどうなっていますか。
高瀬氏 30代半ばから40代後半です。支店のダイバーシティ推進専任者にはその下のジュニア層のフォローもしてもらっています。

-30代や40代の女性は、結婚していたり、子育て中の方も多いですから、とくにそういった意識付けは必要になると思いますが、男性にはその必要がないのでしょうか。
高瀬氏 男性については、身近なところにたくさんのロールモデルがいますし、いろいろなキャリアパスを見ることができます。たまにポジティブ・アクションに対して、「女性優位じゃないのか」と勘違いされることもありますが、「今まで女性に足りなかった部分、つまり意識付けや経験を補っているのだ」と答えています。

新任の女性マネージャーに面会して、必要ならばメンターを紹介

-最後にメンター制度について、お聞かせいただけますか。
高瀬氏 ある支店ではグループをつくって、かなりしっかりメンター制度を行っていますが、私のところ(労務人事部門)では個別に対応しています。ダイバーシティ推進室長が新任の女性マネージャーに1人ずつお会いして、自分からどんどん相談できるという方は大丈夫だと思うのですが、少し不安に思っているなという方には、適任者にメンターをお願いしています。ロールモデルの数が増え、そのモデルが目標になっていくといいと思います。

-女性管理職候補への個別対応もそうですが、一人ひとりを丁寧にサポートしているのですね。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

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