WEBマガジン EVOLUTION Vol.3 シンポジウム

急速な少子高齢化の進行により、男女にかかわりなく多様な人材が能力を発揮できる職場環境づくりが、これまで以上に重要な課題となっています。ポジティブ・アクションの重要性について改めて考え、取組を推進する契機となることを目的に、平成22年10月19日(火)、女性と仕事の未来館において「企業経営とこれからのポジティブ・アクションを考えるシンポジウム」(主催:女性の活躍推進協議会、厚生労働省)が開催されました。


<基調講演>
雇用システムのこれからを展望する
~鍵は「見える化」とポジティブ・アクション~

今野(いまの) 浩一郎氏

学習院大学経済学部経営学科 教授

今野 | いまの 浩一郎 |
学習院大学経済学部経営学科 教授

PROFILE

1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学工学部助手、東京学芸大学教育学部助教授などを経て、1992年より学習院大学経済学部経営学科教授。企業の人的資源管理からマクロの雇用問題まで、人材に関わる分野を広く研究している。
各種シンポジウムでの講演のほか、中央労働委員会公益委員、「変化する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格差に関する研究会」座長など数多くの公職を歴任。

1 雇用システム(人事管理)の捉え方

人事管理のベストは、企業と社員双方のニーズにより、常に変化する

 人事管理の将来は、人事管理の都合では決まりません。人事の都合だけを考えて構想しても意味がないのです。「どのように働いてほしいか」という企業のニーズと「このように働きたい」という働く人のニーズを上手にマッチングさせることにより、経営パフォーマンスを上げるのが人事の役割になります。
 まず企業は経営目標を設定し、目標を実現するために経営戦略として組織をつくります。組織が決まると、個々の社員にどういう役割を期待するかという「期待役割」が決まります。その下で企業は毎年経営計画を立て、今年はどの程度の利益を上げるか等の計画からブレイクダウンして、「こういう仕事でこういう成果を出してね」という「期待成果」のニーズを社員に示します。
 それに加えて社員のニーズである「ライフとキャリアのプラン」「働き方の選択」を踏まえてその社員の仕事が決まり、個々の社員は能力と労働力を投入して仕事の成果を出す、というのが仕事のプロセスです。この仕事のプロセスに、適切な能力や労働意欲をもった人材を供給するのが「人材の適正な配置・供給」であり、「採用、配置、教育」という雇用管理分野で、それを支えます。そしてプロセス全体の評価結果を報酬につなげ、一生懸命働いてもらう人事管理が「報酬管理」です。企業側、労働側のどちらか、もしくは両方のニーズが変われば、人事の役割も変わり、それにより将来の雇用システムの構造も決まることになります。

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2 企業経営の変化と人事管理

仕事配分は「交渉化」、評価・処遇は「結果重視型」、人材開発は「選んで育てる」時代へ

 今の日本の企業経営は、製品やサービスの付加価値を上げるというのが基本的な戦略です。その背景には、市場のグローバル化や技術の進歩といった様々な要素がありますが、先進国の一員としての国際競争を考えると、現在の人件費水準では、高付加価値型経営にならざるを得ません。その結果、第一の方向として、企業は社員に付加価値が高い働き方を求めます。例えば、営業職の社員がお客様のところをまわるだけで、売り上げが自動的に上がる時代ではありません。企業は各々の営業職に自営業主型の働き方、つまりマニュアル通りではない「開発」や「工夫」を伴った働き方を求めます。「売ってこい、あとは任せるぞ。結果だけ見るからね」と言われると、仕事の仕方としては大変きついです。社員からすると責任が生じますが、社員によって「ここはもうすこし工夫をしよう」と考えたり、「そんな仕事は受けたくない」と考えたりするでしょう。そうなると、企業と社員が交渉することによって仕事配分を決める「交渉化」が必要になっていきます。現在一般化している「目標管理」や「社内公募制」は、一種の交渉化のツールです。さらに評価や処遇は成果を重視することになるので、いわゆる成果主義の方向になります。
 第二の方向として、高付加価値型経営においては、人材活用力と人材開発力の強化が求められます。人材活用力を上げるいちばんの基本は、優秀な人材を登用することであり、これは「社内グローバル化」にもつながります。日本の伝統的な人事管理体制は、基幹的な業務は男性社員が担当するという「1馬力体制」ですが、この体制では社内グローバル化に対応できなくなるため、多馬力型にもっていかなければならないということになります。
 人材開発力については、日本企業は社内教育に熱心で、OJTで人材を育ててきたといいますが、それは終身雇用時代の人材育成の特徴です。企業規模が大きくなるに従い新しい仕事がどんどん発生し、新たに配置された人に仕事が配分され、そこに豊かなOJT機会が発生したのです。簡単に言うと仕事が自然に人材を育てていたのですが、今はもうそんな時代ではありません。どのポストに誰を配置するか、「選んで育てる」仕組みへ転換しなければならないのです。

3 労働市場の変化と人事管理

「1馬力体制」で世界に挑む日本企業は競争に勝てるのか?

 労働市場の変化の中でいちばん注目したい点は、働く時間、場所、仕事内容について制約をもっている「制約社員」の増加です。日本企業の典型的な男性正社員は、会社に言われれば時間、場所、仕事範囲にかかわらず働くという「無制約社員」でした。しかし現代では、女性、パート、高齢者、障害者、外国人などが増え、制約社員がマジョリティになり、無制約社員がマイノリティ化してきています。労働力の供給構造が、基本的に大きく変化しているのです。
 「多様で」「柔軟な」働き方は世界の潮流であり、先進国の中で日本はおそらくいちばん遅れをとっていると思われます。とくに女性活用において、ヨーロッパでは1980年代以降急速に進みました。当時の日本は経済パフォーマンスが高いと賞賛され、もっとも競争力がある国と言われていましたが、その頃のアメリカやヨーロッパは失業率が上昇し、賃金は下がるという厳しい時代でした。そこで企業は人事管理面からかなりの構造改革を進め、男性も女性も関係なく活用するぞという意味での「2馬力体制」を実現させたのです。2馬力でやってきている世界の先進国に対して日本は1馬力で挑むという構図になっていますが、日本企業は競争に勝てるのでしょうか。

多元的人事管理への段階的企業フェイズと、組織生産性

 無制限社員が前提である従来の人事管理では、皆が制度に合わせられるため、すべての社員を同じように扱うことができました。一方、制約社員に対しては多様な働き方を前提に人事管理を行わなければなりません。例えば同じ育児をしている女性でも、それぞれ生活環境が違いますから、どの時間帯に何時間働きたいかというニーズは異なります。しかし個別対応の積み上げは、人事管理全体の体系を歪める可能性があります。したがって多様な制約社員に対しては、総合的かつ多元的な人事管理の構築が必要になってきます。
 昔はいわゆる一般職で女性を多く採用しても、女性は短期間で辞めるので、また新たに女性を雇用するという「ローテーション型活用」の時代でした。この時代には、女性は基幹労働力ではありませんでしたから、制約社員がいても企業はとくに「気にしない時代」でした。次第に制約社員が増え、両立やWLB支援が導入されたものの、対象者がまだ少数で、育児などを理由に休む際にまわりが好意でカバーするのが「好意の時代」です。生産性は下がりますが、コストも福利厚生の範囲だからやむを得ないということになります。制約社員がさらに増えてくると、「苦難の時代」に入ります。まわりでカバーしきれなくなり、「また休むの?」となり、休む側も気を使うようになります。全体として不満と遠慮のコストが増大し、モチベーションの低下につながり、組織生産性が大きく落ちてくるのです。それでは良くないので、人事管理を作り変えようという「新しい時代」になります。
 日本の多くの企業はまだ「好意の時代」に該当すると思いますが、女性活用が進んだ企業では基幹的な仕事に就く女性も多く、いま「苦難の時代」にあるのではないかと思います。この「苦難の時代」からいかに抜け出すか、「新しい時代」の具体的な新型人事管理体制の構築が課題となってきます。

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4 社員の「制約社員化」と伝統的人事管理の現状

崩れゆく「1国2制度型」人事管理

 これまでの人事管理は基幹的社員である無制約社員を前提としているため、働き方やキャリア形成を似させることが可能で、「年功基準」により内部均衡を保つことができました。過去にも制約社員はいましたが、非キャリア採用型(一般職)VSキャリア採用型(総合職)、市場重視型(パート等)VS年功重視型(正社員)、高齢者VS現役と、制約社員は無制約社員と異なる人事管理が適用されてきました。これが「1国2制度型」人事管理です。
 ところが制約社員が増え、しかも無制約社員と同等の仕事をするようになり、「基幹」と「周辺」の別扱いに限界が生じてきました。別扱いによって制約社員の労働意欲は低下し、無制約社員も働き方やライフスタイルが多様化する中で単一化が難しくなり、「1国2制度型」人事管理の基盤が崩壊する要因となります。

男女間賃金格差の背景にある、3つの大きな要因

 1国2制度型の人事管理の問題を男女の賃金格差の面から見ると、全体的に男女格差は改善しているにもかかわらず、国際的には日本は依然として、賃金格差が大きくなっています。
 この差がどうして生まれるのか、統計的に現状分析を行ったところ、3つの大きな原因があることがわかりました。1つは年功的に処遇される男性と、そうでない女性とで賃金上昇に対する年齢効果が全く違うことです。もう1つは男性が長期勤続で、女性が短期勤続であるという勤続年数の効果が大きいことです。3つめは、男性の管理職比率が圧倒的に大きく、女性の管理職比率が小さいことにあります。配置と昇進の面で、男女間に違いがあるのです。
 以上の背景にある現実は、長期間かけて養成し、段階的に高度な業務に配置して、それに合わせて処遇をする基幹的業務は男性中心が担い、女性は周辺業務を行うという伝統的な人事管理が反映された結果なのです。
(統計結果等詳細は「男女間の賃金格差の研究会の報告書」参照。)

5 多元型人事管理の実現に向けて

問われる基本選択~「伝統型」か「多元型」か

 いま企業が問われているのは、「無制約社員前提型人事(伝統型)」と「制約社員前提型人事(多元型)」の選択です。これまでどおり無制約社員前提型人事を選択した場合、「1馬力体制」により人材活用範囲を狭めることになりますが、必要なときに必要なだけ活用できる無制限型供給人材を確保できるというメリットがあります。制約社員前提型人事を選択した場合、制約社員を基幹的社員にするので機動的活用力は落ちます。しかし、人材活用範囲は「2馬力(多馬力)体制」に拡大します。どちらがプラスかマイナスか? これが今の日本の人事管理における基本選択問題です。
 トータルで考えた場合、私は制約社員前提型人事管理のほうがメリットが大きいと思います。人事管理の基本原則は、優秀な「人材」に高度な「仕事」を配分し、それに見合った「報酬」を提供する。この3つの関係のバランスをとることです。この原則を社員にできるだけ広く適用し、社内グローバル化によって人材を有効活用することが必要です。

多元型人事管理では、「仕事要素」が重要な均衡基準に

 1馬力体制から2馬力体制、3馬力体制へ移行するには何をするべきか、「仕事配分」「教育」「評価」「人事管理体制」の4つの問題に分けて考えます。
 まず仕事配分(人事配置)について、制約社員前提型の人事管理においては、個々の社員が「働き方、仕事、キャリア」を自己決定して会社と交渉すること、つまり仕事配分の「交渉化=企業内市場化」が求められます。じつは成果主義化を進めても、同じところに辿り着きます。「企業内市場化」を実現するためには、社内公募や目標管理などの制度を整備することが重要になります。
 さらに教育訓練については、労働力の売り手(社員)と買い手(企業)がお互い「賢い交渉人」になることが重要です。企業はキャリア教育の強化など、有能な売り手(社員)を育成することが必要になってきます。また管理職には、「仕事の出し手」として有能な交渉人となることが求められます。
 つぎに「評価と処遇」について、多様化した制約社員の賃金をどう決めるか。いちばん悩ましいのは、違うものを同じにする仕組みづくりです。異なる働き方に同じ賃金を払うということは、働き方は違っても、会社にとっては同じ価値であるということを金銭的に表現することになります。制約社員化が進むほど、今まで以上に均衡実現への仕組みの再編・強化が必要になります。その場合、「仕事要素」が重要な均衡基準となると考えられます。
 さらに人事管理体制はどうなるか。多様化する人事を一括して管理するのは難しく、個別管理を徹底するために「人事管理のライン化」が不可避となります。それに合わせて人事はラインに対する支援機能を強化し、責任を問う仕掛けとしての人事監査機能を設けるなどの構造改革をしていくことになります。アメリカ企業では人事管理機能がライン化されているので、人事管理部門は弱いと言われていますが、人事部門の人事監査機能は日本よりもずっと強い。例えばライン部門を対象に行われる調査の結果を監査し、モチベーションを上げるための改善計画を出せ、と人事部門がライン長に命じる訳です。

6 女性活用の「見える化」ツールの提案

「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」を活用して、男女格差の把握を

 人事監査において、いちばんベースになるのは人事管理の「見える化」です。つまり何が起きているかを見えるようにすることが重要です。私が座長を務める「変化する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格差に関する研究会」がとりまとめた報告書を受け、厚生労働省は社員の活躍を促すための実態調査票などを盛り込んだ「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」を作成しました。
 そのもっとも基本となる考え方は、賃金とは多くの人事管理の結果である、ということです。実態調査票は、社員対象のアンケート調査からの評価と、女性活用に関わる人事管理指標からの評価という2つの部分から構成されています。人事管理上の管理指標だけでは、女性活用の現状把握と原因発見につながらないため、採用から始まり配置、育成、評価、昇進、昇格などを経て退職までの人事管理全ての領域について、女性活用の現状を把握できるように作ってあります。ガイドラインを活用して男女格差の実態把握をしていただき、それが自主的な見直しへの取組につながることを期待しています。

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