WEBマガジン EVOLUTION Vol.3 新春企画 座談会
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メンター制度を中心に
女性の活躍推進を語る座談会

女性活躍推進において“メンター制度”は有効な手段の1つであり、多くの企業で導入が始まっています。今回は、伊藤忠商事株式会社人事部人材多様化推進室長の林 啓志氏、朝日生命保険相互会社人事ユニット能力開発室審議役の佐藤久美子氏、そして日本のキャリア理論の研究者であられる立教大学大学院特任教授の渡辺三枝子氏にお集りいただき、メンター制度の必要性と期待できる役割についてお話しいただきました。

林 啓志氏
伊藤忠商事株式会社
人事部人材多様化推進室長
佐藤 久美子氏
朝日生命保険相互会社
人事ユニット能力開発室審議役
渡辺 三枝子氏
立教大学大学院
ビジネスデザイン研究科
特任教授
村上 文氏
財団法人21世紀職業財団
専務理事 (司会)

 

村上氏 私ども21世紀職業財団ではメンター制度のあり方やメンターの心構え、スキルなどについて研究し、「メンタリング入門」という冊子にまとめています。制度の設計は各社の方針・目的に沿ってなされますので、お二人の会社ではどのようなメンター制度を実施されているのか、まず、概要をお話しいただけたらと思います。

伊藤忠商事はメンタープログラムから、フォーラム形式に移行

林氏 伊藤忠商事では2004年に「人材多様化推進計画」(『人材多様化の推進に向けた取組』参照)を立て、メンター制度は2004年から導入しました。2004年はメンティを女性総合職(希望者)とし、中堅の女性総合職にメンターをお願いしました。2005年度はそれに加え、メンターとなった女性総合職に対して、部門長クラスの男性社員にエグゼクティブメンターをお願いしました。2006年度~2008年度はメンティを入社2年目以降の女性総合職(希望者)と入社1年目の女性総合職(全員)とし、入社1年目には女性総合職の若手のメンター(ジュニアメンター)をつけ、メンタリングを実施しました。これらの取組の成果としては、部署を越えた社内でのコミュニケーションルートができ、メンター・メンティ共に気づきや学びの機会が得られ、視野が広がったことが挙げられます。こうした一方で、2005年から女性総合職の新卒採用を総合職の20%以上、2008年からは30%以上の比率で進めてきました。その結果、1人のメンターに何人ものメンティがつくといった状況が生まれ、メンターも大変になってきました。メンティからは「色々なメンターの話を聞きたい」といった声や、事務職の女性からも「自分たちもメンタープログラムを利用したい」という要望が出てきました。
 そこで2009年度からは、これまでの1対1でのメンタリングを終了して、「外苑前フォーラム」という名称で、総合職だけでなく事務職の女性も含めて人事部がコミュニティの場をつくり、女性の先輩にキャリア形成や仕事と育児の両立、これまでの会社生活での苦労話や失敗談などを話してもらい、質疑応答をしながら皆で共有していく機会を定期的に設けるようになったのです。職場を越えたネットワークづくりの場でもあります。
 本年度(2010年度)は、社外で活躍されている女性の方をお呼びして、どのように壁を乗り越え、キャリアを形成していったか、けっして敷かれたレールに乗ってきたのではなく、その場その場で無我夢中でやってきて、気がついたら管理職に登用されていたというケースが多いようですが、そういったことを話していただきました。若手の女性社員にとって、キャリア継続のヒントになればと思っています。

渡辺氏 とくに女性の管理職や総合職が少ない場合は、ロールモデルが限定されてしまうので、フォーラム的な形で引き上げていくメカニズムをつくっておくのは、とてもいいアイデアだと思います。

朝日生命は「入社2年目」と「キャリア支援」のメンター制度を実施

佐藤氏 朝日生命ではポジティブ・アクションの取組の一つとして、2006年度からメンター制度を導入しています。2006年度は実験的な段階でしたが、2007年度からは「キャリア支援メンター制度」として全社に広げ、女性総合職・エリア総合職(中堅クラス)・女性営業所長をメンティとし、メンターには本社のゼネラルマネージャー(男性)やマネージャー(内女性2名)をはじめ、女性の育成課長、営業所長が携わりました。この制度は、本人が自発的に手を挙げなければ効果がないのではということで公募としました。一方で2008年度からは新たに入社2年目総合職メンター制度を導入し、入社2年目の女性総合職全員をメンティとし(男性総合職については任意)、本社の若手・中堅クラスの総合職にメンターをお願いしました。今年度(2010年度)からは、キャリア支援メンター制度と入社2年目総合職メンター制度を合わせて1つのメンター制度として実施しています。
 応募の際には、希望するメンターの「職種」・「職位」・「所属」・「性別」の希望を聞き、その希望にできるかぎり添うようにしており、メンタリング期間は約1年間で、月1回以上のメンタリングをお願いしています。期間終了後にはアンケートを取るなどして、その効果や運営について検証しています。メンタリングについては、本来は面談によるものがベストだと思いますが、メンティが支社勤務、メンターが本社勤務という組み合わせが多いため、ほとんどが電子メールや電話によるメンタリングとなっているのが実情です。なかには、メンティが本社集合研修に参加する際に、メンターとの面談をセッティングすることもあります。メンタリングの方法に制約はありますが、メンターがいるということで、「何かあったときに相談できる」という安心感はすごく大きいようです。実際にメンター制度を利用したメンティからは、「今後のキャリアビジョンについて考えるきっかけになった」「いろいろと悩んでいた時期にメンターと話すことができ、的確なアドバイスをしてもらって感謝している」等、やって良かった、これからもこの制度を続けてほしいという感想をいただいています。

"定着率を高めるためのメンタリング"が必要な時代

渡辺氏 昔は企業にも家族的な雰囲気があり、新入社員教育にも時間をかけてくれましたが、今は企業内の動きが非常に激しく、優秀な学生であっても適応することが難しくなっています。一番辞めたくなるのが入社1年から3年の間ですから、最初にメンターを確保できると効果的だと思います。また優秀であっても社会性が身についていない場合が多いですから、よい意味で組織の色に染まっていく、組織人になっていくのを支援するのは大切だと思います。とくに日本人の場合は、まずメンタリングはそこが重要ではないでしょうか。

林氏 当社で行っている「外苑前フォーラム」も職場以外の先輩と知り合える機会になればと期待しています。人事部としては社内で色々な人と出会える場を提供して、あとは各々が自分に合ったメンターを見つけてもらえればとも思っています。新入社員に対する指導社員制度というのが随分前からありますが、指導社員は職場の先輩がなるケースが多いのです。職場の先輩以外に色々なことに相談に乗ってもらえる先輩の存在がやはり必要だと思います。そのあたりも意識して、外苑前フォーラムを運用してきました。

村上氏 新入社員や2年目の女性がメンティの場合、メンターはどのような方がいいとお考えですか。

渡辺氏 最初は女性のほうがいいと思います。あまり年の差がなく、気の弱い方にはしっかりとした人を組み合わせるなどの配慮や、メンターに対しては最低限の研修が必要だと思います。

佐藤氏 弊社では、入社2年目女性総合職はメンティ必須としていますが、メンターについては、今年度より本社勤務の総合職・メンティ近郊所属の総合職・メンティ経験のある入社4年目の総合職の中から本人の希望を反映し選任しています。メンティ対象者の職務内容や、どういうことを相談していきたいかに違いがあり希望も様々ですが、今年度(2010年度)の状況をみますと、大半がメンティ近郊所属の総合職・入社4年目の総合職を希望していました。メンターが女性の場合はキャリアアップしているすごい人、というのももちろん良いでしょうが、「ああいうふうになりたいな」「私も頑張ればできるかな」と感じてもらえる、元気に明るく活躍している身近な先輩女性も適していると思います。いつも元気に明るく仕事をしている人には仕事もいくし人もついてきます。仕事がくることでスキルアップしていき、人がついてくることで人望も厚くなり、成長していきますよね。

村上氏 チャンスがくるということですよね。

渡辺氏 そうですね。いい男性・いい女性の先輩に、「能力を出すことがどんなにおもしろいか」という経験を見せてもらうことが、いま必要になってきています。私が個人的に危険だと思っているのは、大学では女子学生が総合職を嫌い、企業では「重い責任は負いたくない。あんなに上までいかなくてもいい」という女性社員が増える傾向にあることで、その原因の1つに企業が総合職で入ってきた女性を「管理職」という枠にはめ込むなどの、ポジティブ・アクションのプロパガンダがあると思うのです。途中で職業的な希望を断念されたり、ポストを投げ出されないためにも、女性に対しては会社に入ってから働き方を選択できるぐらいの余裕を与えてあげたほうがいいと思います。
 今おもしろいのは、こういう形で女性の管理職を育てて、女性も男性も同じように能力があればマネージャーになっていける、マネジメントができるようになる。そういう女性が育ちつつあります。入れる側が総合職か一般職かではなく、まずその会社によりよく入っていって、そこで育てられていく。そのなかにいい男性のモデルもいい女性のモデルもあり、能力を出すことがどんなにおもしろいことかという経験を見せてもらうことが今必要になってきているのだと思います。

 

  林 啓志氏

林 啓志氏

伊藤忠商事株式会社

人事部人材多様化推進室長

伊藤忠商事株式会社 人事部人材多様化推進室長

1986年 伊藤忠商事株式会社入社。建設・不動産部門で営業担当、バブル経済の隆盛後不動産の処理に奔走。1997年から2000年にかけて伊藤忠商事労働組合組合長として従業員サイドから会社の改革を推進。2005年に人事部に異動、人事制度の改定を実施。現在は人材多様化の推進を担当し、女性総合職・事務職・高年齢者・外国籍社員・キャリア入社者の活躍支援に取り組んでいる。

■伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社 伊藤忠商事株式会社
創業 1858年
資本金 202241百万円
代表者 代表取締役社長 岡藤正広氏
本社所在地 東京本社 東京都港区
大阪本社 大阪市中央区
事業所数 国内15店 海外133店
事業内容 繊維、機械、情報通信・航空電子、金属・エネルギー、生活資材・化学品、食料、金融・不動産・保険・物流各分野の国内、輸出入および三国間取引、国内外事業投資など
従業員数 4368人(男性3256人、女性1112人)
平均年齢40.3歳(男性40.9歳、女性38.7歳)
平均勤続年数15年4ヶ月(男性15年7ヶ月、女性14年7ヶ月)
課長相当職に占める
女性の割合
3%
女性トップの役職部長代行職
URLhttp://www.itochu.co.jp/ja/about/profile/
   
※2010年4月1日現在


■ポジティブ・アクションの概要

 男性中心であった従来の商社のカルチャーに、“女性・外国人・中途採用”の多様な人材を融合させ、会社を成長させることを目的として、2004年に「人材多様化推進計画」(5カ年計画)を発足。第1期(2004年~2008年度)を経て、現在は第2期(2009年度~2013年度)に入っている。
 第1期は、採用人数の拡大と制度の拡充を中心に取組を推進。2005年度から新卒の20%、2008年度からは新卒の30%という数値目標を掲げて女性総合職を積極採用し、総合職約3300名のうち、女性が約300名を占めるまでになる。第2期は女性総合職の「定着と活躍支援」に重点を置いている。

  佐藤 久美子氏

佐藤 久美子氏

朝日生命保険相互会社

人事ユニット能力開発室審議役

朝日生命保険相互会社 人事ユニット能力開発室審議役

1975年 朝日生命入社。エリア総合職(当時は専任職)事務職として宮崎支社に勤務。2007年からチャレンジ・リターン制度(キャリア形成支援コース)を利用し、検査ユニット(現、内部監査ユニット)に配属。2009年からポストチャレンジ制度を利用し、エリア総合職から総合職へ移行。人事ユニット能力開発室に配属、現在に至る。家族構成は夫、子ども2人(夫・次男は宮崎在住、長男は東京在住)。

■朝日生命保険相互会社

朝日生命保険相互会社創立1888年
基金1660億円
代表者代表取締役社長 佐藤美樹氏
本社所在地東京都千代田区
事業所数支社58 営業所744
事業内容生命保険業
従業員数 職員 4224人(男性2420人、女性1804人)
営業職員 1万5300人(男性440人、女性1万4860人)
平均年齢 職員 42歳1ヶ月(男性43歳9ヶ月、女性39歳9ヶ月)
営業職員 47歳7ヶ月(男性46歳11ヶ月、女性47歳7ヶ月)
平均勤続年数 職員 19年4ヶ月(男性20年8ヶ月、女性17年7ヶ月)
営業職員 8年3ヶ月(男性11年9ヶ月、女性8年2ヶ月)
職員の
課長相当職以上に
占める女性の割合
4.4%
女性トップの役職総務部長
URLhttp://www.asahi-life.co.jp/company/intro/company.html
   
※2010年3月末現在


■ポジティブ・アクションの概要

 全従業員の8割が女性であることを踏まえ、中期経営計画「ライジングA」に基づき、「活力ある人材の育成と能力発揮」を図る観点から、「朝日生命ポジティブ・アクション」に取り組んできた。第Ⅰ期(2006年度~2008年度)を経て、現在は第Ⅱ期(2009年度~2011年度)に入っている。
 第Ⅰ期は各種制度の充実と職員が利用しやすい環境整備に取り組む。その一つとして、キャリア形成に関するアドバイス等を行う「キャリア支援メンター制度」、先輩総合職による若手総合職への「入社2年目総合職メンター制度」も実施してきた。2009年度には女性総合職の採用割合がポジティブ・アクション実施前の6.3%から33%に、女性管理職数も22名から76名と大幅に増加した。第Ⅱ期はポジティブ・アクションの「浸透と定着」を図るため、各所属(本社内45所属、支社58所属)でその推進を担う「ポジ・アク推進リーダー、サブリーダー」が所属長とともに取組を推進している。また女性職員のキャリア形成に向け、エリア総合職のキャリアモデルを構築し、その実行策の一つとして、担当職務以外の職務を一定期間体験できる「職務体験プログラム」を導入(導入後3年間で1100名のエリア総合職が体験)。

  渡辺 三枝子氏

渡辺 三枝子氏

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授

筑波大学キャリア支援室シニアアドバイザー

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授
筑波大学キャリア支援室シニアアドバイザー

上智大学卒業後、ボストンカレッジ大学にて修士課程、ペンシルバニア州立大学大学院にて博士課程修了(カウンセリング心理学(Ph.D.))。筑波大学大学院教授を経て現職。
<主な著書>
『女性プロフェッショナルから学ぶキャリア形成』(2009) 『キャリア教育:自立していく子供たち』(2008) 『新版キャリアの心理学』(2007) 『メンタリング入門』(2006) 『オーガニゼーショナル・カウンセリング序説』(2005)『キャリアの心理学』(2003)『新版カウンセリング心理学』(2002)『キャリアカウンセリング入門』(2001)

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